FX初心者シリーズ「FXを始める前の基礎」05
前の記事では、取引数量を取引金額へ直し、必要証拠金とレバレッジを分けて考えました。
ただし、FX(エフエックス)でポジションを持った後は、為替レートが動くたびに利益や損失が変化します。まだ決済していない損益も口座の証拠金状態へ影響するため、必要証拠金を満たして取引を始められたことだけでは、その後の状態まで判断できません。
ここで確認したいのが、証拠金維持率とロスカットです。
この記事では、次の4点に絞って説明します。
- 含み損が増えたとき、口座で何が変わるのか
- 証拠金維持率は何を表す数字なのか
- ロスカット、追証、損切りは何が違うのか
- ロスカットが損失額の上限を保証しない理由
具体的な損切り位置、許容損失率、適正な取引数量の計算にはまだ進みません。これらを決めるには、証拠金維持率だけでなく、口座資金、許容できる損失額、損切りまでの値幅なども合わせて考える必要があるためです。
含み損が増えると口座の証拠金状態が変わる
評価損益は、保有中のポジションをその時点の価格で評価した、まだ確定していない利益や損失です。利益方向なら含み益、損失方向なら含み損とも呼ばれます。
ポジションを決済するまでは口座残高そのものと同じではありませんが、多くのFXサービスでは、評価損益を反映した資産額を取引の維持や余力の判定に使います。この金額は、有効証拠金、純資産、口座資産などの名称で表示されることがあります。
たとえば、口座残高が150,000円で、手数料やスワップポイントなどを考えない単純な条件なら、評価損益が0円のときは150,000円、評価損が30,000円に増えたときは120,000円が、評価損益を反映した資産の説明用金額です。
150,000円-30,000円=120,000円
含み損が増えると、ポジションを支えるために使える口座側の金額が減ります。含み益が増えれば反対方向に動きますが、未確定の損益であり、相場が動けば再び変化します。
必要証拠金と口座側の資産は役割が違う
必要証拠金は、ポジションを持つために必要となる金額です。一方、有効証拠金や純資産などは、口座残高へ評価損益等を反映し、現在の口座状態を見るために使われる金額です。
前の記事の説明用例では、USD/JPYを10,000通貨、1米ドル=150円、証拠金率4%として、必要証拠金を60,000円と計算しました。この計算を確認したい場合は、証拠金とレバレッジの基本から読むとつながりを追いやすくなります。
必要証拠金が「取引を持つために必要な金額」であるのに対し、口座側の資産は「現在その取引をどの程度支えられる状態か」を見る材料です。両者を比べることで、証拠金の余力がどの程度残っているかを考えます。
証拠金維持率は必要証拠金に対する口座状態を見る数字
証拠金維持率は、必要証拠金に対して、評価損益等を反映した口座側の資産がどの程度あるかを見る指標です。
OANDA証券の公式説明では、証拠金維持率を次の形で計算しています。ここでは、この計算式を使って口座状態が変化する関係を確認します。
証拠金維持率=有効証拠金÷必要証拠金×100
以下は、この計算式を使うサービスを想定し、必要証拠金60,000円が変わらないと仮定した説明用例です。
| 口座の状態 | 説明用の計算 | 証拠金維持率 |
|---|---|---|
| 評価損益0円 有効証拠金150,000円 |
150,000円÷60,000円×100 | 250% |
| 評価損30,000円 有効証拠金120,000円 |
120,000円÷60,000円×100 | 200% |
この例では、含み損によって有効証拠金が減ったため、証拠金維持率も250%から200%へ低下しました。必要証拠金が同じでも、口座側の資産が減れば比率は下がります。
ただし、実際には為替レートや保有数量の変化等によって必要証拠金も動く場合があります。また、計算に使う資産の名称・範囲はサービスにより異なります。この式や250%・200%という数字を、すべてのFXサービスに共通する判定や安全基準として使うことはできません。
証拠金維持率が所定の条件に達するとロスカットが行われる
ロスカットは、FX業者等が定めた条件に達した場合に、そのルールに基づいて保有ポジションを強制的に決済する仕組みです。投資者の損失拡大を抑えることを目的としています。
基本的な流れは次のように整理できます。
- ポジションを持った後、相場が不利な方向へ動く
- 評価損が増え、口座側の有効証拠金や純資産等が減る
- 必要証拠金との比率である証拠金維持率が低下する
- 利用するサービス所定のロスカット条件に達する
- 業者等がルールに基づいてポジションを強制決済する
「証拠金維持率が何%なら必ずロスカット」というFX全体の共通値はありません。ロスカット水準、判定間隔、全ポジションを決済するか一部から決済するかといった条件は、業者、サービス、商品、口座、取引所ルール等で異なる可能性があります。
ロスカットは損失額の上限を保証しない
ロスカットがあるからといって、決められた証拠金維持率の数字で必ず決済できるとは限りません。
相場が急激に動いたときや、市場の流動性が低下して希望する価格で取引しにくいときは、ロスカット注文の執行に時間がかかったり、想定した価格から離れた価格で約定したりする場合があります。
金融庁と金融先物取引業協会は、ロスカットルールが適用された場合でも、相場状況によっては預けた証拠金を上回る損失が生じることがあると注意喚起しています。東京金融取引所も、相場急変時にはロスカット注文の執行に時間を要し、想定したレートから大きく離れて約定する可能性を案内しています。
そのため、ロスカットは損失の拡大を抑える仕組みであり、損失額の上限を保証する仕組みではありません。
追証・ロスカット・損切りは同じものではない
口座の証拠金状態が悪化したときに出てくる言葉でも、追証、ロスカット、損切りは役割が異なります。
| 用語 | 基本的な意味 | 確認する点 |
|---|---|---|
| 追証・追加証拠金など | 証拠金不足を解消するため、サービスのルールに基づいて追加の入金やポジションの縮小・決済などが必要になる場合がある | 名称、発生条件、解消方法、期限はサービス等で確認 |
| ロスカット | 所定の条件に達したとき、業者等がポジションを強制決済すること | 判定水準、間隔、決済対象、執行方法を確認 |
| 損切り | 損失管理のため、トレーダー自身が決済する、または事前に注文を置くこと | 自分で決める決済条件であり、業者のロスカットとは別 |
証拠金不足が生じ、その不足額の解消を求められている途中でも、相場がさらに動いてロスカット条件に達すれば、ロスカットが行われる場合があります。「追証が出たらロスカットは行われない」「追証とロスカットは同じ手続き」とは限りません。
損切りも、業者側の強制決済を待つ仕組みではありません。具体的な損切り位置や注文方法は資金管理と取引計画に関わるため、ここでは役割の違いまでに留めます。
必要証拠金ぎりぎりでは小さな変化にも余裕が少ない
必要証拠金が60,000円の取引に対して、口座側の資産も60,000円しかないと仮定すると、証拠金維持率を先ほどの式で計算した結果は100%です。
60,000円÷60,000円×100=100%
この数字を安全・危険の共通基準として使うことはできませんが、口座側の資産と必要証拠金の差がほとんどなく、相場変動やコスト、必要証拠金の変化を受け止める余裕が小さい状態だとは分かります。
取引を始められる最低条件と、その取引を余裕を持って維持できる状態は同じではありません。必要証拠金だけを見て取引数量を増やすと、含み損が生じたときに証拠金維持率が低下しやすくなる点を分けて考える必要があります。
証拠金維持率だけで適正な取引数量は決められない
証拠金維持率は、現在の口座の証拠金状態を見るために役立つ数字です。しかし、維持率が分かるだけでは、「何通貨なら自分に適しているか」までは決まりません。
適正な取引数量を考えるには、少なくとも、口座資金、1回の取引で許容できる損失額、損切りまでの値幅、通貨ペアの値動き、取引コスト、証拠金状態を合わせて見る必要があります。
今の段階では、含み損が口座側の資産を減らし、証拠金維持率の低下を通じてロスカットへ近づく流れを説明できれば十分です。証拠金維持率の数字だけから、適正なロット数や安全な取引数量を決めないようにしてください。
これで、取引前の数量と必要証拠金だけでなく、ポジションを持った後に口座状態が変化する流れまでつながりました。次は、損失をどこまで許容するか、損切り幅と取引数量をどう結び付けるかというリスク・資金管理へ進むための前提がそろいます。
